創業100年を超える"老舗企業"から DX成功のポイントを学ぶ

デジタルトランスフォーメーション(DX)が多くの企業で推進されていますが、それは創業100年以上の老舗企業も同様です。"古い考え方"や"縦割りの組織"、"属人主義"などと言われることもある老舗企業ですが、最先端の取り組みでDX推進のトップランナーとなっているケースも少なくありません。ここでは成功事例として、荏原製作所、横河電機、東京海上グループが取り組むDXの最先端を紹介します。

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DX戦略を「攻め」と「守り」で推進する荏原製作所

昨今では、多くの企業でDXによるビジネス変革が急務になっています。特に老舗と呼ばれる企業では、アナログでの文化やベテラン社員の経験に依存した体質から抜け出せずに困っているのではないでしょうか。ですが、不確実性が高まる現代では、ビジネスが絶えず変化し続けているため、老舗企業も積極的なデジタル活用によって組織そのものを変えていき、継続的に成長できる体制を整える必要があるのです。ここからは、老舗企業のDXにフォーカスし、成功事例を解説していきます。

まずは、大正元年創業の荏原製作所のDX事例です。荏原製作所は現在、海外を含めて関係会社が100社以上あり、従業員は1万7000名を超えています。もともとは大学発のベンチャー企業であり、井口在屋教授の理論に基づき創業者である畠山一清氏が「ゐのくち式渦巻ポンプ」として実用化したという経緯があります。そのため、新しいことに積極的にチャレンジするというDNAが受け継がれています。

「創業の精神は『熱と誠』。これは熱意と誠意を持てばできないことはないといった意味で、私も共感しています」と同社 執行役 情報通信統括部長の小和瀬浩之氏は言います。事業としては、風水力事業、環境プラント事業、精密・電子事業があり、事業ごとにカンパニー制を敷いています。

荏原製作所では、10年後を見据えた長期ビジョン「E-Vision2030」を策定し、バックキャスティングアプローチとして中期経営計画「E-Plan2022」を定めています。そこには「DX推進による、製品やサービス、ビジネスモデルの変革」と明記されています。

「経営戦略・事業戦略と、IT戦略・DX戦略は表裏一体であるべきです。守りのDXとして社内を対象とした『革新的な生産性向上』、攻めのDXとして外部を対象とした『既存ビジネスの変革』および『新規ビジネスの創出』に取り組んでいます」(小和瀬氏)

攻めのDXでは、例えば廃棄物処理施設において、燃焼効率向上のためにゴミをかき混ぜる作業があります。従来はベテラン社員が実施していましたが、これを画像処理とディープラーニングを使い、ロボットによって自動化しました。このように、積極的にITやIoT、AIといったデジタル技術を活用しています。守りのDXでは、ERPやCRM、グローバル調達システム、タレントマネジメントシステム、RPA・AIを活用しています。

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グローバル一体経営を目指す

ERPの活用は、インターナショナル経営からグローバル経営へ経営改革をするために必須だったと小和瀬氏はいいます。各国に特定の法人を置かないグローバル経営は、ローコストオペレーションやガバナンス・内部統制の強化に適していますし、M&Aなどを含む事業の急激な変化にも迅速に対応できます。

「その取り組みとして、2024年末までにERPを全グループ会社へ導入し、グローバルで業務の標準化を目指しています」(小和瀬氏)

これまで企業ごとに閉じていたシステムをERPによって統一することで、よりタイムリーで正確に経営を可視化。同時に組織体制の強化として、社長を含め経営陣が参画してDXに知見を持つ高度専門人材の採用や、ERP導入における専任体制(CoE)を行います。さらに経営管理の高度化、そして業務改革に取り組んでいます。また、セキュリティ対策の強化として、今後は、DX人材の育成と情報リテラシーの向上に取り組んでいくそうです。

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社内と社外の2軸でDXを推進する横河電機

次は横河電機の事例です。大正4年設立の横河電機では、「『計測』『制御』『情報』をテーマに、より豊かな人間社会の実現に貢献する」という企業理念を掲げ、工場用のセンサーや制御機器などを中心に製品を提供しています。

同社のデジタル戦略本部では、横河グループが従来の製造業からOT・ITが統合されたワールドクラスのソリューション・サービスカンパニーに変革することをミッションにDXを推進しています。その中で、「インターナルDX」と「エクスターナルDX」に分けてDXに取り組んでいると同社 デジタル戦略本部の山下純子氏は述べます。

「インターナルDXは、横河グループ自身がDXのユースケースとなるべく、デジタルエンタープライズを目指していく取り組みです。一方、エクスターナルDXは、お客様のデジタルエンタープライズ化への変革に寄り添う取り組みです」(山下氏)

データドリブンカルチャーの浸透

企業におけるDX化の一般的な課題は、プロセスやシステムが事業本部別・機能別・リージョン別に存在し、低生産性・低スピードを招いていることです。そこで横河グループでは、データドリブンの経営実現に向けた「行動につながるデータ分析」に取り組んでいます。具体的には、データをバーチャルにビジュアライゼーションした形で分析する「VDA(バーチャルデータアナリティクス)」を用いてデータドリブンカルチャーを浸透させていきます。そのために「Splunk」「Tableau」「Driverless AI」「LUMINOSO」などを活用しています。

「これにより、ビジネスや技術の変化を迅速にキャッチアップし、的確に提案できるようになり、安定運用やコスト削減に生かせるようになりました。データからお客様のニーズを読み取ることで、顧客満足度の達成に向けた施策が打てるようになり、それをフィードバックすることで、さらに精度を上げることが可能になります」(山下氏)

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データの収集から分析までを一気通貫で実施

横河グループでは、開発・生産、販売の流れと購買に至る行動をリンクできるよう、データをつないで活用を推進し、新たな付加価値を生むことを目指しています。そのためには、ビジネスに必要なデータをすぐにビジュアライゼーションできる環境が必要です。データエンジニア、データブレンド、分析の工程に分け、それぞれのポイントで前述したようなツールを導入し、一気通貫で行えるようにしました。

AIの取り組みについては「AI専門の人材は人件費が高額ですし、来年度の予算に組み込んで実施するとビジネススピードにも影響を及ぼします。そこで予測型AIを導入し、AIの専門知識がなくても分析できるような体制を整えることで、新たな付加価値の創造を目指しています。実際に在庫の最適化や、睡眠予測などに活用し、何が起こるかを予測し行動できるよう取り組んでいます」と山下氏は話します。

「社内体制」と「価値提供」の観点で変革を進める東京海上グループ

最後に東京海上グループの事例です。東京海上は日本で一番古い損害保険会社で、明治初期に渋沢栄一が作った数ある企業の一つ。同グループは、国内の損害保険、生命保険、海外の保険事業、その他一般の事業を営んでいます。

同グループのデジタル戦略は、生産性を高めてリーンな経営体制を実現する「社内体制の変革」と、新たな成長への軸の創出、課題解決力を強化する「価値提供の変革」の2つがあり、グローバルでデジタルシナジーを効かせていることが特徴です。DXもこの2つの軸で進めています。

この取り組みを進めていくために、次世代フレームワークを構築しています。これは、SoE、SoR、SoIの3つの領域を分離したうえでシームレスにつなぐ「インフラ戦略」、多種多様なデータを活用するための整備計画と人材を育成する「データ戦略」、ビジネス部門とIT部門が一体となってスピーディな開発を実現する「組織・プロセス戦略」の3つです。

データサイエンティスト育成の仕組みを構築

データ戦略について東京海上日動システムズ エグゼクティブ オフィサー デジタルイノベーション本部長の村野剛太氏は、「データの整備とユースケースが重要になりますが、特に保険データを生かした新規事業の開拓を主導するために、東京海上dR(TdR)を設立しました」と述べます。

また、データサイエンティストを育成するために、3つの階層を設定し、最上級者を目指す「DSヒルクライム」というプログラムを立ち上げています。のべ270時間以上の長期育成カリキュラムとなっており、昨年度からは外部企業からの受講も受入れています。

また、DXを推進するためには、データサイエンティストが活用するデータを整備し、準備するデータスチュワードも必要になります。東京海上グループでは、データスチュワードを東京海上日動システムズから輩出し、グループ全体で共有していく戦略を取っています。

新たにSoIの環境をクラウド上に構築

インフラ戦略では、SoEとSoRに加えて、データを統合し活用するための環境であるSoI(System of Insight)をクラウド上に構築しました。

「ここにはデータレイクとデータラボがあり、外部連携やAPIの活用、さらに内製化を進めることで、お客様の環境に影響を及ぼさない形でサービスを提供することができます」(村野氏)
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組織・プロセス戦略では、データ戦略を推進するためのデータマネジメント体制を強化し、ビジネス部門とIT部門が一体となったDX推進体制を構築しています。具体的には、東京海上日動システムズに設置したデジタルイノベーション本部と、東京海上ホールディングスのデジタル戦略部が共同で、データ活用推進組織をCoEとして設置しています。

さらに新しい働き方への取り組みとして、ユーザーやパートナーと協業しながら開発を行っていく銀座デジタルラボ(G/D lab.)も設置しました。

「DX拠点となる銀座デジタルラボでは、オンラインとオフラインを融合した開発が可能になっています。オープンな環境で協業しながらアジャイルでの開発を進めたい方に、ぜひ一度ご訪問いただきたい」と村野氏は言い、セッションを締めくくりました。

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